本記事は公開されている研究・公的発表に基づく一般的な情報提供です。特定の治療効果を保証するものではなく、医学的助言に代わるものでもありません。数値の解釈や治療方針の判断は、必ず医師にご相談ください。

「オゼンピックとウゴービって同じ薬なの?」「リベルサスは注射じゃないの?」「マンジャロとゼップバウンドは何が違うの?」。GLP-1関連薬を調べ始めた人が、たいてい最初にぶつかる疑問である。

製品名がいくつも出てくる割に、説明はどれも断片的だ。ある記事はオゼンピックの話、別の記事はマンジャロの話をしていて、両者がどうつながっているのかは書かれていない。

答えはひとつの構造で説明がつく。**同じ有効成分が、適応(治療対象の病気)ごとに、そして剤形(注射か経口か)ごとに、別々の製品名で承認されている。**この記事では、ブランド名からではなく成分から出発して、その構造を一枚で整理する。

この記事でわかること

  • セマグルチドはオゼンピック・ウゴービ・リベルサスに、チルゼパチドはマンジャロ・ゼップバウンドに、それぞれ適応や剤形ごとの製品名として承認されている。
  • 医薬品は対象とする適応や剤形が異なれば別の製品として承認されるため、同一の有効成分でも製品名・添付文書・用法用量が異なる複数の製品が並立する。
  • セマグルチドはGLP-1受容体のみに作用する単剤であるのに対し、チルゼパチドはGLP-1受容体とGIP受容体の両方に作用するデュアル作動薬である。

GLP-1というホルモンをおさらいする

製品の話に入る前に、共通の土台であるGLP-1(グルカゴン様ペプチド1)について触れておく。GLP-1は、もともと人の体内にあるホルモンである。食事をとると小腸から分泌され、血糖の状態に応じてインスリンの分泌を促し、グルカゴン(血糖を上げるホルモン)の分泌を抑え、胃の内容物が腸へ送られる速度を緩やかにし、脳の満腹中枢にも働きかける。

ただし体内で作られる天然のGLP-1は、DPP-4という酵素によって数分で分解されてしまう。GLP-1受容体作動薬と呼ばれる治療薬は、この天然ホルモンの働きを模倣しつつ、分解されにくいよう分子構造を改変することで、週1回や1日1回といった投与間隔での作用を可能にしたものである。

セマグルチドとチルゼパチドは、いずれもこの系統に属する薬剤の有効成分名である。ここから先の製品名は、すべてこの2つの成分のどちらかを土台にしている。

同じ成分がなぜ違う製品名で承認されているのか

医薬品は、有効成分の化学構造だけでなく、「どの病気に対して、どういう用法・用量で使うか」という単位で承認される。同じ成分であっても、対象とする適応(糖尿病か、肥満症か)や剤形(注射か、経口か)が異なれば、製造販売元は別の製品として承認申請を行う。その結果、有効成分は同じでも、製品名・添付文書・用法用量が異なる複数の製品が並立することになる。

これは日本に限った制度ではないが、読者が混乱する最大の理由がここにある。「同じ成分なら同じ薬だろう」という直感と、「製品ごとに承認が分かれている」という制度の実際が食い違っているのである。

分類表 ― 5製品を成分・機序・剤形・適応で整理する

成分 作用機序 製品名 剤形 適応
セマグルチド GLP-1受容体作動薬(単剤) オゼンピック 皮下注射(週1回) 2型糖尿病
セマグルチド GLP-1受容体作動薬(単剤) ウゴービ 皮下注射(週1回) 肥満症
セマグルチド GLP-1受容体作動薬(単剤) リベルサス 経口錠(1日1回) 2型糖尿病
チルゼパチド GIP/GLP-1受容体作動薬(デュアル) マンジャロ 皮下注射(週1回) 2型糖尿病
チルゼパチド GIP/GLP-1受容体作動薬(デュアル) ゼップバウンド 皮下注射(週1回) 肥満症(+中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群)

※ウゴービは2023年3月27日に承認、2024年2月22日に発売(ノボ ノルディスク ファーマ)。ゼップバウンドは2025年3月19日に薬価基準収載、同年4月11日に発売(日本イーライリリー)。ゼップバウンドの閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)への適応拡大は2026年5月18日に承認されている。医薬品の適応範囲は改訂されることがあるため、最新の添付文書・PMDA公表資料で随時確認することが望ましい。

表からわかる3つの構造

1. 同一成分でも、適応が違えば別製品として承認される

セマグルチドは「2型糖尿病用のオゼンピック」と「肥満症用のウゴービ」に分かれ、チルゼパチドは「2型糖尿病用のマンジャロ」と「肥満症用のゼップバウンド」に分かれている。用量設計・添付文書上の位置づけも、適応ごとに個別に定められている。

この構造を踏まえると、「マンジャロを痩身目的で使う」という行為が何を意味するかが見えてくる。マンジャロは2型糖尿病の適応で承認された製品であり、肥満症に対して使うのであれば、それは承認された適応の範囲外での使用(適応外使用)にあたる。同じ成分でありながら肥満症用に別途承認されたゼップバウンドという製品が存在するのは、このためである。

2. 同一成分でも、剤形が違う製品がある

セマグルチドには、注射剤(オゼンピック・ウゴービ)に加えて、経口錠のリベルサスが存在する。一方、チルゼパチドには、2026年8月執筆時点で経口製剤は存在せず、注射剤のみである。

ペプチド性の薬剤を経口化することは技術的に容易ではない。セマグルチドの経口化にどのような工夫が必要だったかは、剤形の違いをテーマにした次の記事で扱う。

3. 作用機序そのものが違う

セマグルチドは、GLP-1受容体だけに作用する単剤である。これに対しチルゼパチドは、GLP-1受容体に加えてGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体にも作用する、2つの受容体を標的にしたデュアル(二重)作動薬である。GIPもGLP-1と同様に、食後に腸から分泌されるホルモン(インクレチン)の一種である。2つの受容体を同時に刺激する設計が、単剤とどう効果の出方が異なるかについては、現在も研究が重ねられている領域である。


よくある質問

オゼンピックとウゴービは同じ薬ですか?

有効成分はどちらもセマグルチドで同じだが、承認されている適応が異なる(オゼンピックは2型糖尿病、ウゴービは肥満症)。用法・用量も適応ごとに個別に定められており、製品としては別のものとして承認されている。

リベルサスはなぜ注射ではなく錠剤なのですか?

同じセマグルチドという成分でありながら、リベルサスは経口での吸収を可能にする技術を用いて設計された製品である。ペプチド性の薬剤が通常は注射剤である理由と、経口化に何が必要だったかは、別記事「注射と経口はなにが違うのか」で詳しく解説している。

マンジャロとゼップバウンドは何が違うのですか?

有効成分はどちらもチルゼパチドで同じだが、マンジャロは2型糖尿病、ゼップバウンドは肥満症(および中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群)という異なる適応で承認されている。

ゼップバウンドは日本で使えるのですか?

使える。ゼップバウンドは2025年3月19日に薬価基準収載され、同年4月11日に発売された、日本で承認済みの肥満症治療薬である。「日本未承認」という情報が一部で見られるが、これは誤りである。


出典