本記事は公開されている研究・公的発表に基づく一般的な情報提供です。特定の治療効果を保証するものではなく、医学的助言に代わるものでもありません。数値の解釈や治療方針の判断は、必ず医師にご相談ください。
体重が落ちて、しばらく安定していた。そう思っていた矢先に、数字がじわじわと戻り始める。治療をやめた、あるいは減らした直後というわけでもないのに、気づけば以前の体重に近づいている――そうした経験をした人は、決して少なくない。
「続けられなかった自分が悪い」とか「生活が乱れたのだろう」というふうに、原因を自分の意志の弱さに求めてしまいがちだ。実際、そう責める声を周囲からもらうことすらある。だが、この現象について、医学はすでにかなりのことを説明できるようになっている。
体重が戻るとき、体の中では何が起きているのか。この問いには、治療を中止した人々を追跡した臨床試験と、体重の変化に伴うホルモン・代謝の動きを調べてきた研究が、すでにかなり具体的に答えている。
この記事でわかること
- STEP 1試験ではセマグルチド中止1年後に体重の相当部分が戻り、SURMOUNT-4試験でもプラセボ切り替え群は維持していた減量分の大部分を失った。
- 減量プログラム終了から1年後もレプチン・ペプチドYY・グレリンや空腹感はダイエット前の水準に戻らず、安静時代謝も体格の縮小分以上に下がったまま維持される。
- 食欲ホルモンの変化と安静時代謝の低下は体重セットポイントという調整機構の働きとされ、米国医師会は2013年に肥満症を医学的介入を要する疾患と公式に認定した。
治療を中止すると、体重はどのくらい戻るのか
臨床試験では、治療を中止した参加者の多くが、減った体重の大きな部分を再び取り戻している。
STEP 1試験の延長追跡では、週1回投与のセマグルチド(GLP-1受容体作動薬の一つ)を68週間続けた参加者に、大きな体重減少がみられた。ここまでは、薬の効果としてよく知られている話である。問題はその後だ。投与を中止して1年が経った時点で、参加者は失った体重の相当部分を取り戻していた。血圧やC反応性蛋白といった、体重とともに改善していたはずの心代謝指標も、ベースラインに向かって戻っていったと報告されている。
同じパターンは、別の薬剤でも確認されている。SURMOUNT-4試験は、チルゼパチド(GLP-1とGIPの両方の受容体に作用する薬剤)による導入期の減量後、参加者を継続投与群とプラセボへの切り替え群に分けて追跡した。投与を続けた群は、その後もさらに体重を減らすか、少なくとも減量分の大半を維持した。一方でプラセボに切り替えられた群は、維持できていた減量分の大部分を失っていった。薬剤の種類が違っても、結果の形は同じだった。
空腹感を抑えるホルモンは、なぜ元に戻らないのか
体重が減ると、食欲に関わる複数のホルモンが、体重を取り戻す方向へ変化し、その変化は長く残る。
この点を示した代表的な研究が、食事療法によって体重を落とした人々を1年以上追跡した研究である。10週間の減量プログラムを終えた時点で、食欲を抑えるホルモン(レプチン、ペプチドYY、コレシストキニンなど)は減少し、逆に空腹を強めるグレリンをはじめとするホルモンは増加していた。ここまでは、まあ予想の範囲内だろう。驚くのはここからで、プログラム終了から1年が経過した時点でも、レプチン・ペプチドYY・グレリン、そして被験者自身が申告する空腹感の強さは、ダイエット前の水準に戻っていなかった。
GLP-1は、もともと腸から分泌され、満腹感の信号として働く生理的なホルモンの一つである。GLP-1受容体作動薬は、この信号を薬理学的に強めることで食欲を抑える。だとすれば、薬をやめたときに何が起きるかは、想像がつく。外から補っていた満腹信号が消える一方で、体内のホルモンバランスは、減量によって空腹を強める方向へ傾いたままである可能性がある。
※ ここまでの内容は、公開されている研究に基づく一般的な生理学の解説である。すでに治療を受けている方、治療の中止や減量のペースを検討している方は、自己判断をせず、必ず処方医に相談してほしい。
安静時代謝は、なぜ体重に合わせて下がってしまうのか
もう一つの理由が、安静にしているだけで消費するエネルギー量――安静時代謝――の低下である。
1995年に発表された研究は、肥満のある人とない人を対象に、通常の体重のとき、意図的に食事制限で体重を減らしたとき、過食で体重を増やしたときの、エネルギー消費量をそれぞれ測定した。結果は、単純な体格の増減だけでは説明がつかないものだった。体重を減らして維持している状態では、体が小さくなった分以上に、エネルギー消費量が下がっていた。逆に体重を増やして維持している状態では、消費量が過剰なまでに上がっていた。体は、変化した体重をもとに戻そうとするかのように、エネルギー消費のほうを調整していたことになる。しかも、この代謝の下方修正は、体重を減らして維持している間、続くとされている。一時的な適応ではないというわけだ。
「体重セットポイント」とは、何を意味する概念か
食欲ホルモンの変化と安静時代謝の低下は、別々に起きている現象ではなく、体が特定の体重を守ろうとする一つの仕組みの、両方の歯車だと考えられている。
この仕組みを説明するために使われてきたのが、体重セットポイントという考え方である。体には、現在の体重を一定の範囲に保とうとする調整機構が備わっている。体重がその範囲から外れると――増えても減っても――ホルモンと代謝の両方を動かして、元の範囲に引き戻そうとする。先に見た研究群は、この調整機構が実在することを、データで裏づけたものだと言える。
ただし、このセットポイントは、生まれつき固定された一点というより、環境や治療によって動きうる範囲だと理解されている。減量を難しくする仕組みの説明であって、体重が二度と変えられないという意味ではない。この点は、まだ研究が続いている領域でもある。
なぜ肥満症は「意志の問題」ではなく慢性疾患として扱われるようになったのか
こうした生理学的な知見の蓄積を受けて、肥満症は医学的に、一時的な体重超過ではなく慢性疾患として位置づけられるようになった。
転機の一つが、米国医師会(AMA)による2013年の決議である。AMAは、肥満症を「複数の病態生理学的側面を持ち、治療と予防の両面で幅広い介入を必要とする疾患」として公式に認定した。体重超過を個人の生活習慣の結果とだけ見る立場から、ホルモンや代謝の調整異常を伴う医学的状態として扱う立場への転換だったといえる。
高血圧の治療に近い発想だと考えると、わかりやすいかもしれない。降圧薬を飲んでいる間は血圧が下がっていても、服薬をやめれば血圧はもとの高さに戻っていく。それは、その人の意志が弱いからではなく、血圧を高く保つ体側の要因が、薬をやめた瞬間になくなるわけではないからだ。肥満症についても、同じ構造があると考えられるようになってきている。
だからこそ、治療をいつまで続けるか、どのタイミングでどう減らしていくかという判断は、意志の強さの問題ではなく、医師と相談しながら決めていく医療上の判断だということになる。
まとめ
体重が落ちて、しばらく経ってからじわじわと戻ってくる。それは、意志の弱さの証拠ではない。
食欲を抑えるホルモンが、減量前の状態に戻りきらないまま長く残ること。安静時代謝が、体格の縮小分以上に下がったまま維持されること。そして、その両方が「体重セットポイント」と呼ばれる一つの調整機構として働いていること。どれも、公開されている臨床研究によって裏づけられている。
肥満症が慢性疾患として扱われるようになったのも、この生理学を踏まえてのことである。高血圧や糖尿病の治療を、症状が消えたからといって自己判断でやめる人は少ないだろう。肥満症の治療についても、中止するかどうか、いつどのように減らしていくかは、同じように医学的な判断を要する事柄であり、処方医との相談を通じて決めていくべきものである。
体重セットポイントがどこまで動かせるのか、どんな条件がその範囲を変えるのかについては、まだ研究の途上にある部分も多い。少なくとも、体重が戻ることを自分の意志の弱さのせいにする必要はない、ということだけは、今の医学から言えることである。
よくある質問
体重が戻ってしまうのは、意志が弱いからですか?
そうとは言えない。ここまで見てきたように、食欲を抑えるホルモンの変化や安静時代謝の低下は、体重が減った人に共通して起こりうる生理学的な反応であり、複数の臨床研究で確認されている。個人の意志の強さだけで説明できる現象ではない。
治療を続けている限り、体重は減り続けるのですか?
そうとは限らない。SURMOUNT-4試験では、治療を継続した群は導入期の減量を維持し、そこに一定の上乗せがあったと報告されている。導入期と同じペースで減り続けるわけではない。個々の経過には差があり、治療の進め方は医師による評価が必要な事項である。
体重セットポイントは、一生変えられないのですか?
そうとは考えられていない。セットポイントは環境や治療によって動きうる範囲だとする見方が一般的であり、固定された一点として体重を縛るものではない。どこまで、どのように動かせるかについては、現在も研究が続いている。
リバウンドを防ぐには、どうすればよいのですか?
ここまで見てきた研究が示しているのは、体重を戻そうとする体側の仕組みが、治療をやめた後も残るということである。だからこそ、治療をやめるかどうか、どのペースで調整していくかは、自己判断で決める事柄ではなく、医師の管理のもとで検討すべき事柄だということになる。
出典
- Wilding JPH, et al. “Weight regain and cardiometabolic effects after withdrawal of semaglutide: The STEP 1 trial extension.” Diabetes Obes Metab. 2022;24(8):1553-1564. https://doi.org/10.1111/dom.14725
- Aronne LJ, et al. “Continued Treatment With Tirzepatide for Maintenance of Weight Reduction in Adults With Obesity: The SURMOUNT-4 Randomized Clinical Trial.” JAMA. 2024;331(1):38-48. https://doi.org/10.1001/jama.2023.24945
- Sumithran P, et al. “Long-Term Persistence of Hormonal Adaptations to Weight Loss.” N Engl J Med. 2011;365(17):1597-1604. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1105816
- Leibel RL, Rosenbaum M, Hirsch J. “Changes in Energy Expenditure Resulting from Altered Body Weight.” N Engl J Med. 1995;332(10):621-628. https://doi.org/10.1056/NEJM199503093321001
- American Medical Association. “H-440.842 Recognition of Obesity as a Disease.” AMA PolicyFinder, 2013. https://policysearch.ama-assn.org/policyfinder/detail/H-440.842?uri=/AMADoc/HOD.xml-0-3858.xml