本記事は公開されている研究・公的発表に基づく一般的な情報提供です。特定の治療効果を保証するものではなく、医学的助言に代わるものでもありません。数値の解釈や治療方針の判断は、必ず医師にご相談ください。
「夜遅くに食べると太る」という言い方は広く共有されている。一方で、その根拠を尋ねられると、はっきり答えられる人は多くない。摂取エネルギーが同じなら時刻は関係ないはずだ、という反論にも一理あるように見える。
この論点を扱う研究領域が「時間栄養学(chrononutrition)」である。ここ十数年で、同じ食事でも摂る時刻によって体の反応が異なることを示す研究が積み重なってきた。ただし、その内容は「夜は脂肪になりやすい」という通俗的な説明とは、少し違う形をしている。
この記事でわかること
- 体内時計は脳の中枢時計だけでなく、肝臓・膵臓・脂肪組織・筋肉といった末梢の組織にも独立した末梢時計として存在する。
- 体内時計上の夕方の食後血糖は朝より17%高く、体内時計と行動の時刻がずれるとさらに6%上昇するなど、時刻ごとに反応が異なると報告されている。
- BMAL1による脂肪蓄積の説明は主に動物・細胞実験に基づくもので、ヒトで確認されているのは食後血糖やインスリン分泌の時刻差であり、食物の行き先が時刻で切り替わることではない。
体内時計は脳だけにあるわけではない
体内時計というと、脳の視交叉上核にある「中枢時計」が想起されやすい。しかし実際には、肝臓・膵臓・脂肪組織・筋肉といった末梢の組織にも、それぞれ独立した時計機構(末梢時計)が備わっていることがわかっている。
中枢時計が主に光によって時刻を合わせるのに対し、末梢時計は食事の時刻に強く影響を受ける。健康な人を対象に、食事の時刻を5時間遅らせた実験では、血糖のリズムの位相が約5時間遅れたと報告されている(Wehrens SMT, et al. Curr Biol 2017)。食事は、単にエネルギーを摂る行為であるだけでなく、体内時計に対する時刻合わせの信号でもある。
このことは、勤務の都合で食事の時刻が動く人にとって、二つの意味を持つ。一つは、食事の時刻がずれることで体内の各組織の時刻もずれうること。もう一つは、中枢時計(光で合う)と末梢時計(食事で合う)が別々の時刻を指す状態が生じうることである。
同じ食事でも、生物学的な夕方のほうが血糖は上がりやすい
時刻による違いを、行動(起きている・食べている)の影響と切り分けて測定した研究がある。1日の長さを人工的にずらす手法を用いて、体内時計上の「朝」と「夕方」に同じ試験食を摂ったときの反応を比較したものである。
この研究では、体内時計上の夕方の食後血糖は、朝と比べて17%高かったと報告されている。さらに、体内時計と行動の時刻をずらした条件では、それとは別に食後血糖が6%高くなった。注目されるのは、この2つが異なる仕組みによると解析されている点である。生物学的な夕方における上昇は膵β細胞からのインスリン初期分泌の低下と関連し、時刻のずれによる上昇はインスリンの効きにくさと関連していたとされる(Morris CJ, et al. PNAS 2015)。
つまり「夜は血糖が上がりやすい」という現象と、「時刻がずれていると血糖が上がりやすい」という現象は、重なってはいるが同じものではない。交代勤務のように両方が同時に起きる状況では、この2つが足し合わされることになる。
減量の進み方と食事時刻の関係
実際の生活の中での観察としては、20週間の減量プログラムに参加した420人を、昼食の時刻で早い群(15時より前)と遅い群(15時より後)に分けて比較した研究がある。遅い群のほうが体重の減り方が緩やかだったと報告されている(Garaulet M, et al. Int J Obes 2013)。
この研究で重要なのは、両群のあいだで摂取エネルギー量・栄養素の構成・推定される消費エネルギー・食欲に関わるホルモン・睡眠時間に大きな差がなかったと報告されている点である。「食べる量が違ったから差が出た」という説明では、この結果を十分に説明できない。観察研究であるため因果関係を断定することはできないが、時刻という変数が独立して関与している可能性を示唆する報告として引用されることが多い。
なお本記事では、この研究で報告された体重の差の具体的な数値は扱わない。減量幅の数値は条件によって大きく変わり、個人に当てはめられる性質のものではないためである。
| 観点 | 報告されていること | 注意点 |
|---|---|---|
| 食後血糖 | 体内時計上の夕方は朝より高くなる。時刻のずれはさらに別経路で上乗せする | 実験室条件・少人数。Morris 2015 |
| 末梢時計 | 食事の時刻をずらすと血糖リズムの位相が動く | 健康な人を対象にした短期実験。Wehrens 2017 |
| 減量の進み方 | 食事時刻が遅い群のほうが緩やかだった | 観察研究。因果は断定できない。Garaulet 2013 |
「夜に食べると脂肪になりやすい」の説明で注意したいこと
日本語圏では、「BMAL1という時計遺伝子が深夜に増えるため、その時間帯の食事は脂肪として蓄積されやすい」という説明が広く流通している。BMAL1が脂肪細胞の分化に関わることは実際に報告されているが、この知見の中心は動物・細胞レベルの実験である。
特定の時刻に特定の遺伝子の発現が高いという事実から、「その時刻に食べた分が脂肪になる」という結論へ直接つなぐことはできない。ヒトを対象とした研究で観察されているのは、上に挙げたような食後血糖やインスリン分泌の時刻差であって、「摂取した食物の行き先が時刻で切り替わる」という現象ではない。時間栄養学の知見を扱う際には、動物実験由来の説明とヒト研究の結果を区別しておく必要がある。
生活の時刻を選べない場合に、この知見は何を意味するか
勤務形態によって食事の時刻が決まってしまう場合、「早い時刻に食べる」という選択そのものが取れないことがある。その状況で、時間栄養学の知見を「守れていない」という自己評価の材料にしてしまうと、負担が増えるだけで得るものが少ない。
これらの研究が示しているのは、同じ内容の食事に対する体の反応が一定ではないという事実であり、特定の食事時刻を推奨するものではない。とくに、勤務中の欠食や極端な絶食は別のリスクを伴う。健診の数値に変化が出ている場合や、勤務形態に合わせた食事の組み立てを検討する場合は、医師や管理栄養士に相談することが勧められる。
よくある質問
摂取エネルギーが同じなら、食べる時刻は関係ないのではないですか?
摂取エネルギーは体重の変化を左右する主要な要因である。そのうえで、同じ食事に対する食後血糖やインスリン分泌の反応が時刻によって異なることが、実験研究で報告されている。時刻だけで決まるわけでも、時刻が無関係なわけでもない、というのが現在の理解である。
夜勤中に食事を抜けば、時刻の問題は避けられますか?
避けられるとは言えない。長時間の勤務中に食事を抜くことは、集中力や安全に関わる別の問題を生じうる。研究が示しているのは反応の時刻差であって、欠食を推奨する根拠ではない。
「BMAL1が多い時間帯は食べない」という説明は正しいのですか?
その説明の根拠の中心は動物・細胞レベルの研究であり、ヒトで「その時間帯に食べた分が脂肪になる」ことを示したものではない。時刻による違いとしてヒトで確認されているのは、主に食後血糖やインスリン分泌に関する反応の差である。
勤務時間帯が周期的に変わる場合、食事の時刻はどう考えればよいですか?
一律の推奨を示せる段階にはない。勤務の周期・仮眠の取り方・食事環境によって条件が大きく異なるためである。健診結果や体調の変化を踏まえたうえで、医師や管理栄養士と個別に検討することが現実的である。
出典
- Morris CJ, et al. Endogenous circadian system and circadian misalignment impact glucose tolerance via separate mechanisms in humans. Proc Natl Acad Sci USA 2015;112:E2225-E2234
- Wehrens SMT, et al. Meal timing regulates the human circadian system. Curr Biol 2017
- Garaulet M, et al. Timing of food intake predicts weight loss effectiveness. Int J Obes 2013;37:604-611
- Scheer FAJL, Hilton MF, Mantzoros CS, Shea SA. Adverse metabolic and cardiovascular consequences of circadian misalignment. Proc Natl Acad Sci USA 2009;106:4453-4458